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その後

藩王「人を良くすると書いて食。食というものは生きるうえで重要であると共に、精神的成長にも必要なものである。と・・・」

政庁内にある寝室で、そこまで書いて、玄霧がペンを止める。
どうやら、料理教室での出来事を日誌に書いていたようだ。

「で、なにやってんの?」

後ろで髪を梳いていた火焔が声をかける。

「あぁ、せっかくなので日誌をつけようかなと思って。何の料理作ったとか判ると被りも少ないし」
「へぇ。暇人ねー」
「・・・いや、まぁ、うん。そうかも。日誌の最後の部分書いたらお相手いたします」

いずれ、この料理教室で学んだことを何かに生かす人も出てくるだろう。
それは家族へのちょっとしたお返しだったり、愛する人へのプレゼントだったり、中には医食同源や食育の考えから医療法の一つとして研究する人も居るかもしれない。
その昔、中国には食医という職業があった。医者の中でも特に優れたものが古代の王たちの食事の調理や管理を任されていたのである。
医者と料理人は、昔は一つだった。ならば、医療国家である玄霧藩国でも、そういった人が出てくるかも、知れない。
それは今の段階ではただの夢物語だが、きっといつかは現れるだろう。
そのときこそ、新しい段階に進めるのではなかろうか。解決策が一つの方向性だけなのではなく、様々な方法から好みの手段を選べるような段階へ。
今を乗り越えれば、きっと。そう願っている。








                                     玄霧弦耶の日誌より抜粋。



この後は、手記には記されていない出来事である。






「あ、そうそう。はいこれ」

日誌を書き終えて振り向いた玄霧の目の前に、火焔が小さな袋を差し出した。
目で『あけていいか?』と確認し、中を確認すると、クッキーがつまっている。

「これ、火焔が?」
「そ。今日、様子見に行ったらもう終わってたから。あの後でね」

『なれないことしてつかれたー』といいながらベットに倒れた火焔が、玄霧を見る。
玄霧が、そんな火焔をみながら、一口食べて感想を言う。
感想に満足したのかしてないのか、ごろり、とベットの上を転がった。
そして、玄霧は少し考え、火焔にとある提案をした。





それから、数日後。
所変わって、NWのどこか。
薄暗い空間の中に、数人の人の気配だけが、ある。





「長老。手紙と、小包が」
「……そうか」

闇の中で、なにかを受け渡すような気配と、紙の刷れる音だけが響く。
それは暫くの間続き、続いて、小包をあけるような音がする。

「……中は、一体?」

そう問いかける若い声に、長老と呼ばれた影が、手紙を投げる。
音もなく受け取り、若い声の影が、中を見る……


『クッキー作り途中参加の皆様へ。

 お手紙で失礼します。藩王件講師の玄霧弦耶です。
 先日はお料理教室への参加、有難うございました。
 参加してみた感想は如何でしたでしょうか?
 楽しんでいただけたなら、教室を開いた甲斐があったというものです。

 さて、そのお料理教室でのクッキー試食の際、皆様は余り手をつけられなかった様に見えました。
 私は、料理は楽しんでこそだと、思っております。
 お口に合わないかもしれませんが、私と火焔とでもう一度クッキーを焼きました。
 試食の際にとっておいたクッキーも、一緒に詰めております。
 参加したときを思い出しつつ、皆様で食べていただけると幸いです。
 宜しければ、感想をお聞かせください。

 また参加していただけることを期待して、我々一同、お待ちしております。


                                      玄霧弦耶   』

「……意図が見えませんね」

若い声の影が、言う。

「本当に手紙の内容通りなのかも、知れん」

長老と呼ばれた影が、手でクッキーの小包をもてあそびながら答えた。
中を開け、ひとつ、摘む。

「長老。毒入りという可能性は?」
「いまさら毒入りクッキーのような手段はとるまいよ」

答えながら、長老と呼ばれた影が摘んでいたクッキーを、食べた。
相変わらずの薄暗さで、表情は見えない。
が、なぜか、若い声の影には……
長老が、うっすらと笑みを浮かべているように、見えた。



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